「だから言ってるじゃないですか、もういません。」

そう淡々と告げる姿に私は苛立ちを感じた。

「言っとくけど、私は自由になりたいの!」

そう言い張り、これでもかと言うほどの罵声で申し出た。

「あらら、自由をお望みでしたか。」

そう言うと、女はこんなことを言う。

「私の名前聞いたこと、ありますか?。 マリア。マリアですよ。」

マリア…って…、

「キリスト神話?」

「そう、キリストの神話にでてくる聖母マリア。」

偶然とは皮肉でわからないが、神の子を授かった人と同じ名前…

「私にも、世界を創れる力があったようですね。」

ニタリと笑うマリアに、どうしたらいいか戸惑う私。

「ねえ、あなた、名前無かったわね。名無しさん。」

「名無しさんって何?!酷すぎるし…。」

あーらごめんなさい、とニコッと笑い、「名前、つけてあげましょうか。」なんてふざけたことを言っている。

「人生の主役なんですから、ね。」

主役…。

そう、私が望んだ未来は自由。

そして、希望。

名前くらいあってもいいんじゃないか。

「カオル、とかは。」

「どういう意味?」

「何もない世界に香ってみては?」

「何それ。…」

そういうと、マリアはこっちに来てください、と手招きをした。