月の満ちる頃、光の園。

息を切らして駆け込んだのは、病室。





白いカーテンが風に揺れる。医者らしき人と、看護師、それから零の両親。





全員が同じように目を伏せていた。





俺に気がついたのか、零の母親が顔を上げた。






その顔はあまりにも暗く。表情がないようだった。





「あら、来てくれたのね。」





言葉が聞き取りにくい。くぐもった声で話す零の母親は、そっと身を引いた。






その先にあったものを見て、絶句した。






言葉にならない恐怖と絶望が心を蝕んでいく。






そんな感覚だった。






俺の目の前には、痛々しく包帯を巻かれ、傷だらけになって横たわっている零の姿が写った。






「零…」





視界が暗く沈んでいく。






ドン底に突き落とされているかのように、暗闇を落ちていく。






底から声がする。聞きなれた優しい声が。





眠る零の傍で俺は立ち尽くし、ただ見下ろすだけ。





感覚が麻痺していく。思考回路がぐちゃぐちゃに掻き乱される。






きっと目には光がない。表情だって、零の母親のように暗くなっているはずだ。





知らないうちに、頬になにかが触れた。





汗じゃない。暖かい、何か塩っぱい味。






白いシーツに透明な染みがついていく。






「…零、なあ…起きろよ。零…」






目から溢れる雫が止まることは無い。







「零…ッ!!」






声が枯れても、涙が枯れることはない。





大声を出して泣きながら、その名前を呼び続けた。