猫が恋をしたようでして。



「ねこちゃんか、可愛い名前だね」

『からかってます?………あっ、!す、すみません…つい…』


微笑みながら言われて別にこの井口さんは何も悪いこと言ってないのに
つい、つっかかってしまった


「ごめんね。からかうとかそういう気持ちは一切ないから。聞き返しちゃってごめんね」

『いえ、申し訳ないです』

「名前のこと触れられるの好きじゃないんだよね。でもこれだけ聞いていいかな?」

『何ですか?』


井口さんは優しい人だ

私の中で決まった


私の名前のトラウマを何となく察してくれた

誰だって聞き返すよね、この名前は
私が逆の立場だったらきっと『え?』とか言って聞き返してしまう

この人はからかったわけじゃない
それが分かったなら質問に答えてもいいと普通に思えた


「漢字でどうやって書くのかなって少し思ったんだよね」

『音楽の音に子どもの子ですよ。それで音子です』

「なるほど、そう書くのか~。教えてくれてありがとね」

『いえ、井口さんこれからよろしくお願いします。これ少しばかりですが、食べてください』

「わざわざありがとうございます。あと、俺のことは井口さんじゃなくていいよ」


私はちょっと井口さんの言葉を疑った

井口さん以外で何と呼べばいいの?


「ほら、愛垣ちゃんにとっては俺が唯一のお隣さんだから、気軽に好きに呼んでくれていいよ。堅苦しくなくていいよってこと。井口さんでもいいけど徹さんでもお兄さんでもおじさんでも、隣の人…これはなんか冷たいから嫌だな~」

『ふふ、ありがとうございます。徹さん?』

「うん、一人暮らしでしょ?まだ学生みたいだし…一人暮らしって結構大変だから頼りがいないかもしれないけどいつでも頼ってね」

『はい、嬉しいです。私のことも好きに呼んでくれていいですよ』

「じゃあ、お言葉に甘えて音子ちゃんにするよ。あっ、そろそろ日が落ちてきた。外寒いから家に入りな」


私は徹さんに言われてそういえば寒くなってきたと気がついた

いつの間に長話をしてたみたいだ


『はい、では、これからよろしくお願いします』

「うん、よろしくね」


私は一礼して隣の自分の家へと帰った

徹さんは私が家の中に入るまで家の中に入らなかった

それがいやらしい感じじゃないのが良かった



なんか徹さんは不思議な雰囲気があった

優しくて、声も温かい、初対面だけど警戒心はもう一切ないし…



徹さんが隣の人で良かった