「ホテルのレストランで食事をした。女の真っ赤に塗られた口紅が気持ち悪かった。きつい香水の匂いも、高いヒールに、露出の多い服装も。すべてが気持ち悪くて、早く帰りたかった」




春さんが私を抱き締める腕に力を込めた。
震えてる、春さん・・・。




「・・・食事になのか、飲み物になのかわからないけど。薬をいれられたみたいで途中で意識が途切れたの」

「え」

「気づいたら、あたしは・・・。ベッドの上で裸で横たわってた。あたしの上には、あの女が乱れた格好であたしの上に跨ってた」




咄嗟に春さんの顔を見上げた。
春さんは、なにを想っているのかわからない無表情で。

淡々と話を続ける。



「奇跡的に、まだ未遂だったけれど。室内に漂う女のきつい香水の匂いとか。身体にまとわりつく女の舌の動きとか。身体を這う手の感触とか、気持ち悪くて。汚らわしく思えて」

「―――っ」

「状況が理解できると思い切り女の身体を突き飛ばして、落ちてる服とか荷物を引っ掴んで外に逃げた。真っ先にトイレの個室に逃げ込んだの」