こちらに向かってくる倖也さんに、私は戸惑い逃げることができなかった。



「・・・あんた」

「あ・・・、す、すいません」




目を見開いた倖也さんが気まずそうに視線を反らした。
その倖也さんを追いかけスーツ姿の男の人が声をあげた。



「倖也さん!一度社長と―――」

「うるせぇ!話すことなんて何もねぇって言ってんだろ!」




倖也さんは、そう切り捨てるように叫ぶと私の腕を掴み強引に進んだ。
私は戸惑いながらも引っ張られるように歩く。
チラリと後ろを見ると、スーツ姿の男の人は悔しげに倖也さんをしばらく見つめた後踵を返し帰っていった。


いったい、誰なんだろう。



私はいつの間にかエレベーターに乗せられていて、上昇していく感覚にハッと我に返った。