「ありがとうございました」

 送ってくれた朔さんに軽く頭を下げる

「じゃあ明日ね」

 走り出した車を見えなくなるまで見送る。


  
  ガチャ


 ただいま、なんて言わない。

 意味がないから。 

 ううん。自分が惨めになるから。 


 あの時、家を出るとき、気づいてあげればよかった。

 だけど私は、自分のことで精一杯でお母さんが苦しんでることに気がつかなかった。

 私のために寝ないで働いて、最後まで私を想っていてくれた。

 そんなお母さんを私は、最後の時まで一緒にいてあげられなかった。
 支えてあげられなかった。


『君が、寺田柴乃(テラダシノ)さんかな?』

『はい。』


『こちらへ』

 警察官のような人に連れてこられ、ついた部屋。

 そこには、“霊安室”とかかれていた。


そして、その扉の向こうの台に置かれ白い布のようなものを被っているもの。

  信じたくなかった。

 ついさっきまでは、私と喧嘩していたお母さん。

 そんなお母さんがここにいるなんて信じたくなかった。


『…かっ、確認してもいいですか』

『まだ、貴方には刺激が強いと思いますので、やめた方がいいとおもいます。』

 そういった警察官の言葉を無視して、台に近づく。

 


 嘘だよね…

 だって、さっきまで元気だったじゃん…

 なのに、なに…? あり得ないよねっ…



  そっと捲った布から見えたのは、

青白くなって瞼を閉じているお母さんだった。