だから諦めるよ。あなたから本音を聞くのは、ね。

「私、来るよ。誰がなんと言おうと、どうなろうと。」

また眉尻を下げて困ったような泣きそうな、辛そうな顔をする。

--そんな顔しないで……。

「あなたが化け物でも構わない。あなたと言う人を知ってる。だから来る。これからもずっと」

ふいっと顔を背けた。きっと、突き放そうと思えばもっと早く、いくらでも突き放せただろう。でも彼はそれをしなかった。

「俺、化け物だよ?」
「知ってる」
「死なないんだ」
「うん」
「年も取らないし」
「うん」

それでも彼という人柄が好きだった。この場所が好きだった。

「しばらく姿消さなきゃ。だからイブちゃん--」
「嫌」
「違うよ、話を聞いて。俺はしばらくここからいなくなる。だから君が高校に入ったら、また会おう。その頃にはほとぼりも冷めてるだろうし、その時には俺が先生としてそこに行くよ」

ほんの2年ほどの我慢だ、と彼は言った。

気付けば赤い庭が白んできた。夜空も以前にまして澄み渡り、もう衣替えも終わっていた。いつの間にか、この街に来て一年が経とうとしていた。

「遅刻は厳禁。入学式にはちゃんと来ててよ」
「うん」
「2年だけだからね」
「うん」
「ねぇ」
「うん?」
「……高校で会ったら、その時言う」
「わかった。約束な」

この日を境に、彼はこの街からいなくなった。それから2年、この高校に入学してからも一向に彼は来なかった。

ちょっと遅刻してるだけだ、仕方ないから留年してでも待っててやろう、そうやって退学ギリギリで過ごしてきた。