中学一年の春、入学と同時にこの街に引っ越してきた。中学は高校のすぐ近くで高校の裏手には小さな山があった。田舎といえばそれまでだが、都会よりもずっと静かで落ち着いた。

しかし都会とは違い、景色があまりに同じなので道はなかなか覚えられなかった。だから好奇心旺盛な私はあの日、学校付近を歩き回っていた。

その途中で近所のおばさんが話していたのだ。あの赤百合屋敷のことを……。狙って行ったわけじゃない。道がわからない私にそんなことは出来るはずもなかった。きっとただの迷子だった。

ただの迷子がたまたま迷い込んだのが、丘の赤い花が咲き誇る小さな屋敷の庭だった。

「なにしてるの?」

知らない人に声をかけられた。見た目は大学生とかくらいに見えた。風に乗ってほんのりとクチナシの香りがする。これが彼との出会いでした。