ざぁ…っと木の葉のこすれる音がこだまする。風になびく髪が鬱陶しい。瀬川の髪がきらっと反射して眩しい。

そんなことを考えていたかった。何も聞こえていない方が私にとって都合が良かった。

「恭一郎は死んだんだ」

なのにそれを許さないかのようにもう一度、瀬川は唱える。

まるで私に言い聞かせるように、幼い子供に親が死んだと伝えるみたいに。現実から逃がしてはくれない。

「『約束果たせなくなってごめんね、イブ。代わりに氷蓮を置いておく。氷蓮が俺の代わりだ』恭一郎はそう言ってた」

瀬川に彼がダブって見える。それは私の目が涙を帯びていたからか、あるいはいて欲しいと思う気持ちから幻を見たのかわからない。ただ私が崩れ落ちるのに時間はかからなかった。

膝の力は抜け、呆然とし尽くす私は身寄りを目の前で失った子供のように、何も聞こえず何も考えず雫が頬を伝った。

「橘伊吹。君は赤百合屋敷で恭一郎と高校に入ったら再び会う約束をしていたんだろう?それでも恭一郎は現れなかった。だからずっとあの学校に留まるために、留年を繰り返していた。違う?」

死ぬはずなかった。彼が死ねるはずがないのに……。だって彼は私が愛した化け物なんだから。