久々の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

外は既に紅に染まっている。各々部活に行く者バイトに行く者遊びに行く者、好き好きに動き出す。私もここからあの場所へ行かなければ……。

「橘伊吹」

後ろから名前を呼ばれた。淡々と、どこか気だるげに呼ぶ声は分かる。瀬川氷蓮だ。

「なに?」

肩越しに振り向いて短く応答する。瀬川の目は私を見てはいない。

「橘伊吹。一緒に帰ろう」
「……は?」

唐突の提案に唖然とする他ない。間抜けな声が出たことにも気付かないほどに私の思考は停止していた。

--何故。何のために。どうして。

疑問ばかりが浮かんでは消え、しかしそれが言葉になることは無い。

「橘伊吹と話がしたい」

私は話すことなんてないのだが。それにこの後私は行きたい場所がある。いや、行かなければいけない場所がある。

「赤百合屋敷」

ボソリと呟かれた言葉は私を反応させるには十分だった。つい勢いに任せて振り向いてしまった。

「話がしたい。橘伊吹」

瀬川は私の何かを知っている。少なくとも私が警戒すべき人であることは間違いない。

「……わかった。行こう」

断る術などないのだ。ただ主導権を握られるわけには行かない。冷静にならなきゃ……なのに。

冷静になんてなれない。鼓動が早まる。汗が首筋を伝う。力が入る。

校門までの道がとてつもなく長く感じた。