ずっと学校を休んでいた。別に不登校って訳じゃない。もっと別の理由だ。

かれこれ半年以上は休んでいただろう。それも一年の三学期からなので皆周りは学年が変わっている。それでも私は休んでいた。

「家の複雑な事情で半年ほど休んでいた橘 伊吹だ。同学年にはなるが橘の方が年上だ。色々聞くといい」

明らかに留年してますって言い方しなくてもいいだろうに。嫌味なのか素なのかは知らないが……。当然周りの反応もいいものとは言えない。

奇異の目、野次馬の目、軽蔑の目……。様々な視線が私の体を舐めるようにくまなく突き刺す。

その中でさして興味のなさそうな目でちらりと見てすぐに窓の外に目を移した人がいた。柔らかなくせっ毛が日にあたり、時折キラキラと輝いて見える。

「橘は一番後ろの窓から2列目な」

教壇から降りて席と席の間を通るとあちこちからヒソヒソと話し声が聞こえる。

どうやら私のクラスでの第一印象は最悪のようだ。大人しく目立たないように静かに過ごそう。どうせまたしばらくしたら私は学校を休むのだから。

「ねぇ」

席に着く直前、のんきな調子で呼び止める声がした。

「瀬川氷蓮。よろしく」

まだホームルームも終わっていないのにも関わらずそう告げる。随分とマイペースなようで、恐らく興味のあること以外は何もしないタイプに見えた。

「どうも」

短くそれだけ答える。瀬川もそれ以上なにか言うわけでもなく、ゆっくりとまたぼんやり外を眺めはじめた。その姿はまるであの時のあの人とそっくりで……。

「橘。橘!」

強く呼ばれてはっと我に戻る。感傷に浸っている場合ではない。今はまだ学校だ。

「しゃきっとしろよ」

それだけ言って黒板に向き直った。すらすらと書き連ねられる文字をただ景色のように眺め、ただ時間が過ぎるのを待っていた。