化け物カレシ

やっとの思いで声を絞り出した。

「ばっかじゃないの……!」

ダメだった。止まらなかった。恭一郎にすら見せたことはなかったはずだ。私のナミダなんて--

「いぶ--」
「大体っ!なんでそんなに、躊躇いもなく自分を傷つけられるの!?馬鹿なの!?」

私の肩に手を伸ばしかけた瀬川は泣き叫ぶ様子に戸惑い、固まった。

「痛いでしょ!?なんでそんなに笑ってられるの!」

もう恭一郎に話しかけているのか、瀬川に話しかけているのかすらわからない。ただ自ら傷つける事を悲しいと思った。死なないのと傷つかないのとはわけが違う。

「痛いとか、思わなくなった……かな。慣れた」

笑ってこそいなかったものの、まるでそっくりそのまま恭一郎から返された気分だった。

あちこちで恭一郎と瀬川がダブる。今ここであの時やめた言葉を言えたなら、恭一郎の応えが聞けるんじゃないか--そんなふうに思ってしまった。

「好き」

私が見つめていたのは間違いなく、瀬川のはずだった。なのに私の目には瀬川は映っていなかった。単純に口からこぼれただけ近しい。

「伊吹……?」

「好きだったの。ずっと」

「やめて」

少し低い、瀬川の本気の声に我に返る。目の前にいる彼は苦しそうに私の肩を掴み、引き離した。

「僕は恭一郎じゃない」

わかっていた。そんなこと当たり前だ。それなのに止まらなかった。

あまりに似すぎているから、全然違うのに似てるから。瀬川を見る度に思い出すから。

「……ごめん。私どうかしてたわ。さよなら」

すっと立ち上がり、瀬川に背を向け歩き出そうとした。

--こんな気の迷い、さっさと捨ててしまおう。

「瀬川。私、やっぱりあんたが嫌い。大嫌い」

顔も見えず声も聞こえなかった。でも瀬川がちゃんと聞き取ったことだけは確かだと思えた。