彼が死ねるはず、なかった。なのに彼は死んだという。

「橘伊吹」

再度名前を呼ばれる。それでも私は指1本動かせはしない。動かしたいとすら思わない。

「君はどこまで知っている?」

--何を?

言葉には出せず、叫ぶ声を抑えて荒い呼吸を繰り返す。

「藤堂恭一郎のこと。どこまで知っている?」

名前も知らなかった、と言ったら笑うだろうか。そんな何も知らない人を好きだったなどと言ったら、笑われるだろうか。いっそ笑い飛ばしてくれれば楽だろう。

「恭一郎は瀕死だった僕に不老不死を譲って死んだ」

--不老不死を、譲った……?

「恭一郎は僕を死なせてはくれなかった」

どういうことなのかわからない。聞きたいことは山のようにあった。聞かなきゃいけない。私は瀬川に、彼--藤堂恭一郎のことを。