黒髪短髪、人相の悪い男。

耕介は二度と会いたくなかった男でもある。

我妻 武(あがつま たけし)。

元警視庁組織犯罪対策四課、いわゆる『マル暴』の刑事。

脅迫、恫喝、暴行、発砲当たり前の粗暴な捜査により、警察内部でも爪弾き者とされているが、その検挙率の高さと腕っ節の強さから、巽や倉本と同じ『野獣』に任命された。

本来ならば彼こそが、倉本や巽に先んじて一番目の『野獣』となる筈だった。

『野獣』とはただの異名ではなく、違法捜査さえも黙認される強い権限を持つ特殊な位置付けの刑事の肩書きでもあるのだ。

が、我妻は決して巽や倉本といった他の刑事とはつるまない。

彼が刑事として、『野獣』としてその権限を行使するのは、幼い頃に拉致され、数年に亘って監禁生活を余儀なくされていた娘の復讐の為だけ。

彼は娘の為だけに、犯罪者達を刑務所(じごく)に送っている。

時には本当の地獄に送り込む事さえあるが。