谷田さんと会社で二人きりは何となく悪い事してるような気になる
谷田さんしかいない事務所で私は話しかけながら作業を始めた
仕事の話が主だ
ちょっと照れる
飲み会の出来事依頼、営業課長のからかいは増していた
その度に私はそのノリを借りながら谷田さんに何度かアタックしていたのだ
そんなやり取りがいつからか会社の日常となり
私の谷田さんファンは社内で割と認知されていた
いつもの私のストレートなアタック
「谷田さんは私の憧れなのでー!!!!」
「ハイハイ…」
さらっと流されるけど谷田さんはいつも笑ってくれていた
そんなやり取りがいつも面白かった
夜の事務所で二人きり
私は平静を装って作業を進めるけど視線は谷田さんの背中
「遅くまで大変だね」
谷田さんが会話をふってくれる
「今一番忙しい時期なんです…でもこうやって谷田さんと二人きりになれるなら悪くないかな」
「まーたそんな事言ってー!!」
あははは~と二人で大笑いした
会話に混ぜて好きアピールするノリも慣れてしまった
ふと谷田さんはこちらに振り向かず私に聞く
「樋山ちゃんって何考えてるのかわからない時あるね」
ドキッとした
谷田さんはきっと私の気持ちが本気か嘘のただのからかいなのか気になってるんだ
私は少し考えていつもと変わらない明るいテンションで
「私は純粋に谷田さんに憧れてるだけですよ」
と答えた
いっその事、本気ですってグッと迫れば良かったかと思ったけど
私の理性がそれを制した
彼氏とは長年付き合いすぎて恋愛感情ってあんまり意識する事はなくなってて
谷田さんを見てる事は私にとって日々片想いの様なワクワクドキドキ感
それが代わり映えしない毎日のスパイスとなって
谷田さんへの気持ちに拍車をかける事になっていたかもしれない
けれど私は確実に谷田さんへの気持ちを恋愛感情に変えて行っていた
谷田さんはうーん…なんて言って少し困っていたけど深くは追求してこなかった
これくらいがいい
これくらいにとどめておかないと……
その日は二人が社内で最後だった
谷田さんはもう私の感情を聞いてくる事はなく
また普通の日常会話をしながらお別れして帰ったのだった