「なるほどねー。
そんなことあったんだ。
あの祥永に女ね……。
練習直前にそんなことあったら、確かに楓文は潰れるよね。
わかった。んじゃ、私もそれとなく元葵【もとき】辺りに探り入れとくよ」
歩乙衣が告げた元葵とは、祥永と一緒にバンドをしている奥野元葵【おくの もとき】のこと。
「うん。歩乙衣ちゃん、それいいよ。
もっくんだと、祥永も頭上がんないもんね」
歩乙衣と碧夕によっと次々と話が進み、心の中のもやもやを少し吐き出した私は
ほんの少しだけ、ダークさが軽くなったように感じられた。
黒烏龍茶を飲みながら食事をすすめて、二人の話にも耳を傾ける。
店内で約一時間ほど過ごして、私たち三人は再び私の愛車に乗り込んで
順番に家まで送り届けて、自宅へと帰路についた。
自宅に辿り着いた時には、すでに23時近い時間。
相棒のギターを抱えて、車から降りると玄関のドアを開ける。
「おぉ、今帰りか。
練習お疲れさん。風呂、お湯入ったからとっとと入ってさっさと寝ろよ」
そう言ってお父さんは、リビングのソファーへとドカっと座ってテレビを見ながら豪快に笑う。
リビングに顔を出して、そこから2階に続く階段を登って自室へと入ると
着替えを持って風呂場へと直行した。
久しぶりの練習。
清香からもたらされた祥永のこと。
湯船につかってると、いろんなことがグルグルとループして一向に
解決しそうになくて。
そのまま湯船に沈むように、
顔をつけると一気に湯船から立ち上がる。
今日の疲れを洗い流すように体と髪を洗って、
メイクを落とすと再び湯船につかって、UNAの曲を口ずさむ。
スタジオでは絶不調だった今日の歌声もお風呂の中ではそれなりに響いて……。
歩き出すって決めたんだから。
ギターを触って、歌ってる時間がありのままの私でいられるって
解放してくれるって思えたから。
だからちゃんと私は私らしく頑張るんだ。
ちゃんとリセットして一歩、足をしっかりと踏み出して。



