「ここが孝輝が事故った場所なんだ」



絞り出すように告げる言葉。


彼女は、俺の言葉に助手席の窓を開けて
その方向を振り返って見つめていた。


すぐに正面を向いて窓を閉めた楓文ちゃんは、
その後も助手席で固まってしまったかのように、
動かなくなってしまった。


車を土山サービスに停めて「楓文ちゃん、少し歩かない?」っと
彼女を車の外へと連れだした。


コンビニやフードコートを少し歩いて、
ちょっとした飲み物とパン、ガムなどを購入して車へと戻る。


車に戻った後も、すぐに発進させることはせずに
運転席の座席を倒して、ゴロリと横になった。


助手席の彼女も戸惑いながら、
俺が進めると同じようにシートを倒して横になった。



「今日はごめん。
 君を傷つける為じゃなかった。

 だけど孝輝のファンである楓文ちゃんと、これからも一緒に過ごすなら
 遅かれ早かれ、さけては通れない道だと思ってた」


そうやって、天井を見ながら話し始める。


「俺は……君が大切なUNAを助けることが出来なかった」



そう言って絞り出すように吐き出すのは、
ずっと誰かに責めて欲しかった俺の爆弾。



孝輝を助けることが出来なくてずっと責め続ける俺自身を、
両親も親族も誰一人として責める人は居なかった。

だけどそれが……逆に苦しくて。


誰か一人にでも、罵って俺自身をめちゃくちゃにしてくれたら
こんなにも引きずることなんてなかったのかもしれない。


だからこそ……俺は、孝輝を思い続ける彼女に
思い切り責められて解放されたいと望んでしまうずるい奴。



だけど全てを吐き出しても、彼女の口から零れたのは
俺を責める言葉なんて何処にもなかった。




「……先生も辛かったんだね……。
 UNAのお墓に行って、UNAが亡くなった場所を教えて貰って私も辛かった。

 私……何となく、先生のこの日にデートに誘われた時、
 もしかしてって思う部分もあったんだ。

 確信じゃないけど……女の子は妄想は得意だから。
 だけど……もうそうで思ってたことと、現実は殆ど違わなかったけど
 だけどそれが事実だって思った時、ショックで苦しかった。

 ほらっ、お墓参り、葬式も何もかも……ただのファンは知らされないでしょ。
 知らされないから、夢を見ていられる部分があるの。

 またUNAがひょっこり帰って来て、ライブしてくれるような錯覚って言うのかな。
 だけどその希望が、完全に閉ざされちゃった。

 私も凄く辛かったけど、だけど同時に……それを知った時、先生は私は以上に何かに苦しんでるんだって思った」



彼女はそう言って、俺を包み込むようにゆっくりと助手席に寝ころんだまま
言葉を紡いでいく。 


「仕方ないって言う言葉は、使いたくないんだけど……だけど、そんなことしか見つからない。

 先生は……孝悠さんは、同じ車に乗ってなかったんだもん。
 その時働いていた病院から電話があって、慌てて新幹線で仕事に戻ったんでしょ。

 確かに、あの時……孝悠さんが近くに居たら、UNAを助けることも出来たかもしれない。
 だけど……そんなのどうなるかわかんないじゃん。

 事故を回避できる未来だったら良かったけど、二人同時に事故にあってる未来もあったかもしれない。
 二人とも大きな怪我をして、二人同時に……って言う最悪もあったんだよ。

 孝悠さんが思ってるみたいに、絶対にUNAを助けられたとは限らない。
 だからもう、そんなに思いつめなくていいと思うんだ。

 UNAも望んでないと思う。
 もう……苦しまなくていんだよ。そんなに……」


そう言って助手席に眠っていた彼女は体を起こして、
俺に近づけてきて、いい子いい子をするように俺の髪に触れた。



「ねぇ……UNAも、今みたいに苦しんでるお兄ちゃん見てると辛いと思う。
 手に入れられなかった『もし』に苦しみ続けるのは、もうやめようよ……。

 孝悠さんは、今を生きてるんだから……」