お父さんの手術が終わった夜、お母さんと一緒に自宅へ戻って
晩御飯の準備をしてると、スマホが着信を告げた。

着信相手は、歩乙衣。
料理を手伝う手をとめて、スマホを握ると電話を繋げる。


「もしもし」

「楓文、今電話大丈夫?」

「うん。平気」

「おじさん、手術成功した?」

「うん。無事に終わったよ。
 ペースメーカーが入ったことで、身体障害者にはなっちゃうみたいだけど
 でも安心は買えたかな」

「そっか。無事に終わってよかった。
 じゃあ、このまま進めちゃっても大丈夫かな?

 今、マクサに碧夕といるんだ。
 次のLIVE、9月の下旬くらいに決まりそうなんだけど、平気かな?
 楓文が大変な時に悪いかなーって思ったんだけど、それでも出来るときはLIVEしたいじゃない?」

「ごめんごめん。こっちこそ、そんな大事な時にそっちいけなくて。
 9月下旬ね。んじゃ、私もそのつもりで予定入れとくから」

「で、宮川はダメだったけど次の金曜はどう?
 そっちで花火大会でしょ」


そう……今週の金曜日は、鳥羽のみなとまつり。

何時もは歩乙衣たちと一緒に行く花火大会だけど、
今年は……先生を誘いたいって今は思ってる。

明日……先生に会えたら思い切って声をかけたい。


ちょっと天気予報は、台風の関係で怪しいんだけど
それも祈ってれば、アマテラスが助けてくれるような気もする。

これだけ毎日、ご奉仕してるんだもん。
私の味方で居てくれるよね。


そんなことを勝手に思いながら、スマホを握りしめる。


「ごめん。私その日は別行動。
 お父さん助けてくれた先生が居るんだけどさ、
 ちょっとその先生のことが気になってるんだ。

 だってさ、マクサで出逢って、神宮で再会ってちょっとした運命だよ。
 私、まだ1年だし神楽も指名せいじゃないのに……先生の家族の時に倭舞したんだったよ。
 
 その後は、お父さんが倒れて不安な時も助けてくれて、宮川の花火もそっちには行けなかったけど
 TSUTAYAの駐車場に車とめて見てたんだ。

 だから……今年はゴメン」


口早に現状を告げると、歩乙衣も碧夕も驚いてたけどすぐに了承してくれた。


「了解。んじゃ、こっちは元葵たちとつるんでいくよ」


電話で会話が盛り上がってる時に、ふと近づいてきたお母さんが「何時まで電話してるの。ご飯出来たわよ」っと
釘をさしていく。


慌てて電話を切って晩御飯、その後はいつもの夜を過ごす。
ただその夜は、どうやって先生をみなとまつりに誘おうか考えているとドキドキして眠れなかった。

翌朝も早朝に起きて12時間労働。
ささっと、着付けを済ませて掃除三昧の日々。


台風の関係で、風も雨も強くなっていく神宮にもまばらに参拝客が姿を見せる。



『何もこんな天気の中、来なくてもいいのに』


なんて思いながらも、私の心は仕事の後の病院のことでいっぱいだった。

何処に行ったら先生に会えるかな?
今日、先生仕事かな?

休みだったらどうしよう。
あっ、連絡先書いたカードを用意しなきゃ。

なんて……この後の予定を何度もシュミレーションしながら、
掃除に気合を入れつつ、勝手に神頼み。



頼んだよ、アマテラス。
私の恋、応援してよ。




仕事を終えると慌てて、車へと急いで病院へとお見舞いを口実に車を走らせる。

ワイパーを必死に動かしても、バシャバシャと打ち付ける雨は、道路の白線を隠して
ハンドルを風に取られそうになる。

グっとハンドルを握る手に力を込めて、病院の駐車場へと車を停めると
手帳に挟んでいたメモ帳替わりのカードに、連絡先を書いて、メッセージを書き込む。

よし、準備はOK。
後は病院で、先生を見つけるだけ。

車にぶら下げてる神宮の内宮さんの鈴守に触れてその後は鞄の内側ポケットに忍ばせてる、
女の子の為の相差【おうさつ】の石神さんのお守りを握りしめて
覚悟を決めて、愛車から降りて傘をさしたまま、暴風雨の中病院の出入り口へとかけ始めた。


探さなきゃいけないって思ったのにアマテラスでかした。
傘を閉じながら私の視線は先生をロックオン。

勇気を出していつもの様に先生に声をかけようと深呼吸をした時、
先生の声が聞こえた。