アパートへと辿り付いた時、家の前には見慣れた一台の車。


「慎哉?」



アイツの愛車、黒のアテンザが停まってた。
窓をコンコンと叩くとすぐにスマホを触ってたアイツが車から出てきてアパートの入り口の方に駆け出す。



「どうしたんだよ。
 こんな日に」

「お前、今日午後からは帰ってるはずだろ。
 久しぶりに、飯に食いに行こうかっと思って来てみたら帰ってねぇし」

「まっ、上がれよ。
 適当なもんしかないけど、天気も天気だから今から外行くのもな」



そう言って、車を俺が借りているもう一台の駐車枠へと停めさせると
アパートの部屋へと招き入れた。


入って一言、「うわっ、何もねぇ部屋」と言う慎哉。


「何もねぇーって、ソファーとテレビくらいはあるだろ」

っとテレビの電源を入れて、アイツをソファーへと誘導する。
 


そのままキッチンへと直行すると、病院に行ってる間に勝手に部屋に入って
補充してくれている母親の料理を冷蔵庫から出してレンジで温める。


料理は得意じゃない。

一人暮らしの時は、コンビニ飯と外食が多くて
こっちに帰ってきた今は、実家とアパートが近いのが幸いして
母親からまとまってレンジで温めるだけの状態で食事が運ばれてくる。



手当たり次第、レンジで温めてお皿に適当に盛り付けると
ソファーの前のガラステーブルへと運んだ。

冷凍庫で冷やしたビールグラスにハイボール用の氷とグラス。



圧倒的にアルコールを飲む量は慎哉の方が多いが久しぶりにゆっくりと夜を過ごした。


その中で出てきた話題は楓文ちゃんのことばかり。


慎哉も孝輝を良く知る一人だから……、
そして……孝輝のことで、今も俺が自分を責め続けていることを知っているから。



「けど最近のお前……ちょっと感じ変ったよな。
 楓文ちゃんのおかげかな?」


そう言いながら慎哉は、再びハイボールを喉へと流し込んだ。


「なんで彼女のおかげなんだよ」

「おいおいっ、今更照れるなって。
 マスターの情報網、侮っちゃいかんよ孝悠。

 楓文ちゃんの親父さんは、マスターの友達だよ。
 お前さんが病室に顔を出してるのも、楓文ちゃんがお前にしょっちゅうあってるのも筒抜け」



そう言った慎哉の言葉に俺は空になったグラスに、
ハイボールを再び作って二杯目を口に含んだ。



「んで、お前のほうは?」

「金曜日に鳥羽に行くよ。
 楓文ちゃんに誘われた」

「それはそれは……」


久しぶりに親友と飲み明かす夜。
俺自身を牽制する何かが、少しずつ剥がされていく気がした。


その翌日、俺の連絡先を彼女が記したように
電話番号・メルアド・LINE IDを伝える一通のメールを送信した。
 


そのまま花火大会当日まで、病院で擦れ違うこともなかった。