「午後からは空いてるかな」

「じゃ、その時間私にちょうだい。
 鳥羽、みなとまつりなんだ。

 宮川の花火は、駐車場でしか見れなかったから
 今度こそ、ちゃんと見よう。

 お父さん助けてくれたお礼がしたいから」


突然の彼女からのデートの申し込み。


何を言われたのか、思考回路が停止していた俺に近づいてきた彼女は
手に持ってたカードを俺の手に握らせた。



「じゃ、金曜日ね。
 先生、連絡待ってるから」


そのまま彼女は、俺に手をふって病棟のエレベーターへと続く方へ駆け出して行った。



手に残されたカードには、彼女の名前と携帯番号。そしてメールアドレスと、LINEのID。

俺と彼女が繋がる手段が記されていた。


その連絡先を記したメモの最後には、



先生へ

突然、連絡先渡してごめん。
だけど迷惑じゃなかったら、脈があるって思ってもいいなら
私の連絡先に先生から、連絡ください。

金曜日の花火、一緒に見られるの楽しみにしてる。

勢力楓文




小さいけれど美しい文字で綴られていた手紙。


その連絡先を指先で辿りながら、溜息を一つ零してカードをポケットへと片付け
帰路についた。



彼女は孝輝を思い続ける少女。
俺の中に彼女は存在するけど、彼女の中には孝輝を介した俺しか存在しない。



孝輝……お前と双子だって言うルックスで、
こんなにも気になる奴が出来て、苦しむなんて思いもしなかったよ。



自虐気味に心の中で、弟に語りかける。
外は生暖かい風が強く吹いて、傘をさしていても風圧で飛ばされてしまいそう。

打ち付けるような雨に、傘をグッと握りしめてアパートまで歩き続けた。