病院で顔をあわせる度に、
いつの間にか会うのが楽しみになっていた彼女との時間。


不意なことから、宮川の花火を病院前のレンタルショップの駐車場から眺めて、
一緒に食事にいった。



コンビニや院内で擦れ違うたびに、
俺に近づいてきては、屈託のない笑顔を浮かべて話かけてくる。


そんな彼女の優しい空気に、どれだけ仕事で肉体が疲れていても
もう少し頑張ろうってそんな風に思えた。


宮川の花火の翌週。
彼女の父親の不整脈の原因を補うために、ペースメーカーの埋め込み手術が行われた。

手術当日、病院に姿を見せた彼女の表情は少し不安そうで、
思わず駆け寄って声をかけずには居られなかった。


知り合いの子の父親と言う形で、彼女の父親の担当医とも
話をふっていた俺は、時折彼女の父親の病室を訪ねていた。

そんな経緯もあって彼女の父親からも手術の予定や、不安の声などを
知る経緯もあり、出来るだけ寄り添えるようにと関わってきた。


彼女の母親は、病室に俺の姿があるたびに驚いていたけど、
すぐに受け入れて貰えたようで、顔を覗かせると、俺を迎え入れてくれた。


これじゃ、お見舞いに行ってるのか、
休憩に顔を出しているのかわからないくらいに。


そんな時間も重なって、今以上に彼女を知りたいと望む俺自身と
彼女は……弟と俺を重ねているだけなんだと、UNAを好きだと告げた
彼女の言葉を思い出しては牽制をかける。


そんな日々。



「楓文ちゃん」


コンビニで買い物を終えて、病室に戻ろうとしていた彼女の背中に声をかける。

くるりと振り返った彼女は、今日も必死に笑顔を見せて
俺のことを『先生』っと呼んだ。



「お父さんの手術、今日だよね。

 心配だと思うけど、その手術が終わったら、埋め込むペースメーカーが
 この間みたいになった時も、補助的に動いてくれて助けてくれるから」

「うん。

 担当医の先生だけじゃ、お父さんもお母さんも不安だったみたいだけど
 先生が顔出して、詳しく説明してくれたって言ってたから、
 心配してないって言ったら嘘になるけど、信じてるから。

 でも心臓って言ったら、やっぱり心配だなーって」


そう言って彼女は、口を噤んだ。


抱きしめて包み込みたくなる衝動が湧き上がってくるのを知りながら、
この場所で堂々とすることも出来ず、俺は彼女を励ますように肩を軽くトントンと叩いて
仕事へと戻って行った。


自分の仕事をしながらも、時計にチラリと視線を向けては
彼女の父親の手術のことばかりを考えている俺が居た。


その日の勤務が終わった夕方、彼女の担当医と擦れ違ったとき、
手術は無事に成功したことを知った。

まだまだ安静時間は必要だけれど、張りつめていた糸がほっと緩められた。




そのまま自宅に帰ることなく、朝まで仕事を続けることになった俺は翌日の夕方、
俺が帰る頃に、仕事を終えた後にお見舞いに来たらしい彼女と擦れ違った。



ビジネススーツに身を包んで、出入口へと慌てて傘をさしながら走って近づいてくる彼女。


外は台風が近づいてきているのか生憎の天気で、
風に煽られて髪も濡れてしまっていた。



「酷い天気だね」

「ホント、えらい天気。
 車から此処までの距離で、びちゃびちゃだよ」

「仕事後なの?」

「うん。
 昨日、お父さんの手術成功したよ。

 だからほらっ、神様にも有難う伝えておきたいしね。
 真面目に、アマテラスにお仕えしてきた。
 いっぱい、姑さんみたいな上司の元で掃除してきたよ」



姑みたい上司……それに、天照【あまてらす】って
神様を友達みたいに呼び捨てして……。


そんな彼女の無邪気さに、思わず笑みが零れる。


「先生は今帰り?
 なんか、今日はいつも以上に顔疲れてるけど?

 先生の過労死なんて洒落になんないよ」


軽い口調でパンパンっと軽いテンポで話す彼女に、
思わず吹きだしてしまう。


「人を年寄り扱いするなって。
 まっ、今から帰って寝るよ。

 楓文ちゃんも早く、お父さんに顔見せてやれって。
 病室で退屈してるだろうから」

「うん。
 あっ、先生。あのさー、今週の金曜日空いてる?」



病室の方へと歩きかけた楓文ちゃんがくるりと振り返って
俺に問いかける。


確か……金曜日の予定は、当直明けでその後は休み。