早速取り出したお父さんは、「そうそう。これこれ。下のコンビニに買い物に行きたかったんだけど、これつけてるから、この階から動くなって
お許しでなくてなぁー。母さんに託したら、わからなかったらしくて別の雑誌買ってきた」。


そう言って、別の本を見せるもののその本は、すでに自宅に転がってた週刊少年漫画の雑誌。


「あぁ、お腹空いた。悪いけど、少しお菓子食べさせて。
 12時間労働でお昼、おにぎりだけってホント、キツイわ」

そう言いながらコンビニの袋から、先ほどのお菓子を引っ張り出して開封すると
ポテトスナックを口の中へと運ぶ。

そして炭酸ジュースを喉元に流し込んだ。


「おいおいっ。そうやって慌てて食べたら喉つめるぞ。楓文」

「もう、そんな子供扱いしないでよ」

なんて他愛のない会話をしながらも、案の定、詰まらせて咳き込む私。


ほら見たことかっと呆れ顔のお父さん。
だけど、こうやってお父さんの顔が今見れるのも、あの人が……先生が助けてくれたから。



「そうそう。
 お父さん、びっくりしたよ。
 この間、先生がマスターと一緒に病室に来てくれてな」

「はっ?
 先生ってどの?」

「ほらっ、覚えてないか?
 マクサで、マスターに紹介して貰った垂髪さんって人。

 お父さん、知らなかったけどここの病院の先生してたんだな」



お父さんの言葉に、私もびっくりする。


今のお父さんの主治医の先生も、担当医の先生も別の先生。

あの先生は、救急の先生でお父さんが、先生の手を離れた時点で
終わりのはずなのに、お父さんの病室に顔出してくれてたなんて……。


そんな些細なことで、嬉しさを感じてる私がいる。



「それより、良かったのか?
 今日は宮川の花火だろ?清香ちゃんたちと行くんじゃなかったのか?」

「そりゃ、予定してたけど清香たちにはちゃんと連絡した。
 皆、わかってくれてるからさ」

「そうか……。悪かったな」

「そう思うなら、とっとと体治して、退院して安心させてください」


可愛げのない言葉を伝えて、お父さんが食べ終えた食器を手に持つと
専用置場へと膳を返して、病室の方へと戻る。


花火は見えないけど、打ちあがった音が響く。



……始まったんだ……。

宮川の花火。

伊勢神宮奉納全国花火大会。
コンクールも兼ねた、伊勢の大きな花火大会。



七月は他にも花火大会はいろいろとある。


宮川の花火に、鳥羽のみなとまつり。


もう終わってしまったけど、鳥羽の石神さんで有名な相差【おうさつ】の天王くじら祭りの
花火も、短い時間に勢いよく花火がうちあがって見ごたえがある。

市の単位じゃなくて、町単位の軍資金で、この花火がうちあがってるのを知って
凄いなぁーって感動したのを覚えてる。


くじら祭りも今年も、間に合わなかったんだよね。
仕事で……。