あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】



あの後も、仕事の後お父さんのお見舞いに日赤に向かうと、
何度も院内で、先生を見かけた。

院内に入っているコンビニで、
おにぎりと野菜ジュースを手にレジに並んでる先生。


近づいて声をかけると、UNAそっくりの笑顔で笑い返して、
挨拶を返してくれる。



「先生、こんにちは。
 今日もおにぎりなんですか?

 医者なのに体壊しちゃいますよ。
 愛妻弁当作ってくれる奥さんいないの?」


勢いに任せて、私何言ってるんだろう。


そう言う私も手に持ってるのは、炭酸のジュースとお菓子。
そしてお父さんの缶コーヒーとお茶。



「勢力さんはお父さんのお見舞いですか?」

「仕事の後だから、遅くなっちゃったけど」

「今日は一人ですか?」

「お母さんは午後からの仕事だから、朝の間に来てると思うんだ。
 先生は?」

「俺も今日は終わりかな。
 気になることがあって、少し残ってたんだけど。
 それじゃあ、お先に」


そう言ってレジを済ませた先生は、白衣を翻しながらテクテクと歩いていく。

レジの終わった荷物をぶら下げて、エレベーターでお父さんの入院する階まで向かうと
ナースステーションで看護師さんに会釈だけして、病室へと顔を出した。

大部屋で入院してるお父さんのベッドは一番奥。


すでに晩御飯が運ばれた後みたいで、テレビを見ながら食事をしてた。



「お父さん、調子どう?」

「おぉ、楓文か……仕事の後、疲れてるだろ。
 お父さん、平気だぞ。

 病院は食事の量も少ないし、酒が出ないからなー。
 早く帰って、晩酌したいよ」


そう言いながら笑うお父さんの体には、今もポータブルの心電図が取り付けられたまま。



「何言ってるのよ。お父さん、心停止して倒れたんだから。
 徹底的に検査して原因見つけて貰ってよ。
 じゃないと、お酒も煙草もダメだからね」

「おぉ、怖い怖い」

「はいっ。差し入れ。
 って言っても、下の売店で買ってきた珈琲とお茶。

 後、こっちは此処に来る途中に目の前の本屋で買ってきた。
 お父さんが購読してる雑誌。

 暇つぶしにはなるでしょ」


そう言って、週刊コミック雑誌と、釣り雑誌の入った袋を手渡す。