「先生、ご家族をお連れしました」
看護師によって連れられてきた家族の顔を見て、
俺はびっくりした。
入ってきたのは二人。
救急車に同乗していた女性だけじゃなく、
あの少女が隣に寄り添っていた。
少女もまた俺を見てびっくりしたのか、
はたまた緊張の糸が解けたのか、グラっと体が傾ぐ。
思わず椅子から立ち上がって、崩れる少女の体を抱きとめる。
「すいません」
俯いたままで、少女が告げる。
「楓文?」
「ごめん。
お母さん、大丈夫だから」
「大丈夫ですか?
緊張の糸が途切れてしまったのかな?
どうぞ、こちらに座ってください」
声をかけながら、俺の腕から体を起こす少女の脈を確認して瞳から貧血の状況を読み取る。
少女の言葉に偽りがないのを確認して俺は状況説明へと移った。
少女の父親はそのまま入院して、詳しい検査をして不整脈の原因を探すことになると言うこと。
今日のところは、お父さんの状態は落ち着いたと言うことと、
入院中はずっとポータブル心電図を身に着けて貰っているのでお父さんの心電図データーは、
常にナースステーションでモニターされているということ。
「垂髪先生、お願いします」
それらの説明を終えた頃、看護師が次の患者の搬送を告げた。
「はいっ。行きます。
んじゃ、入院の手続きお願いします」
母娘を看護師に任せて、俺は次の患者さんの元へと駆け出す。
その日は、明け方まで救急車は続いた。
助かった命、助けられることが出来なかった命、
ここに辿り着いた命は、まちまち。
だけど、あの少女の命が助かって良かったと
そう思う俺自身も居た。
朝、引き継ぎを済ませて外の空気に辺りに病院から外に出る。
欠伸をしながら大きく体を伸ばして、
運動していると少女が母親と共に再び姿を見せて俺に向かって会釈した。
その時、ふいに響く着うた。
少女は慌てて鞄の中からスマホを取り出して、
母親に声をかけると、スマホを握りしめて邪魔にならない隅っこへと走っていく。



