「いってらっしゃい。

 尚【なお】君に宜しくね。
 またお母さんもお父さんと一緒に顔出しますって言っといて」


そう言いながら母さんは立ち上がると、
私がハイエースを発進させるまで見送ってくれた。


駅前の道路を走って、二見【ふたみ】経由で23号線へと出て
途中にあるショッピングモールに立ち寄って時間を潰す。


今日の練習相手でもあり、同じ夢を追い続ける歩乙衣【あおい】こと天白歩乙衣【てんぱく あおい】と碧夕【みゆ】こと里中碧夕【さとなか みゆ】との待ち合わせ時間まで、後30分。


店内で洋服を物色しながら、時間を潰しているとふいに私のスマホがブルブルと着信を告げる。


着信相手は、高校時代の親友・清香【さやか】こと浜千代清香【はまちよ さやか】だ。

売り場から少し離れて、ベンチの近くに移動すると
通話ボタンを押してスマホを耳に押し当てる。



「清香、どうしたの?」

「ちょっと楓文【ふゆき】、今時間いい?」

「15分くらいだったら平気」

「じゃあ、用件だけ。
 楓文、アンタ今も酒徳と付き合ってんの?」



清香の突然の言葉に私は固まってしまう。


「えっ?清香どういう事?」

「最近、酒徳の奴が大学の教育科の奴と一緒に居ることが多いんだって。
 けど酒徳と楓文は付き合ってんだよね。今も」



突然投下された清香の爆弾。

だけど付き合っているつもりでも卒業して以来、
社会人の私と、大学生のアイツとでは、ライフスタイルが違い過ぎて
思うように逢えない時間が続いてた。

だから……祥永が私を捨てて他の女に乗り換えたとしても私には何も言えない。



電話の向こうは、私を思ってかなりご立腹な様子の清香。



「清香、心配してくれてありがと。

 けど大丈夫だよ。
 祥永もほらっ、付き合いがあるかも知れないし。

 友達として行動してるだけかもしれないし」


精一杯の強がりで紡ぎだす言葉。


「アンタ……男と女の友情関係なんて本当にあると思ってんの?

 まぁ、いいわ。
 酒徳のことはちゃんと私が監視してるから、楓文は安心して。

 アイツが楓文を傷つけるようなことしてたら、
 私が叩き潰してあげるから。

 忙しいのにごめんね。
 じゃあ、電車来たから電話切るね」


慌てて電話が切られて、私は立ち尽くしたままスマホをじっと見つめる。
次にスマホが鳴り響いて慌てて視線を向けるとスケジュールのお知らせを告げる。


あぁ、何落ち込んでんだろ。

まだ祥永に新しい女が出来たってわけじゃない。
清香の勘違いだよ。

気を取り直して、久しぶりの練習頑張らなきゃ。


自分に何度も何度も言い聞かせるようにして、
私は駐車場へと移動をして、愛車と共に今日の目的地へと再び車を走らせた。