マクサでマスターに紹介された少女。

『昔、ここで何度かLIVEをしたことのある孝悠だよ。
 パートはギター』

マスターを俺のことをそう言って、少女にした途端に
少女は悲しそうな顔色をした。


俺と弟は一卵性であるが故にそっくり。 


彼女は孝輝を……UNAを知っているのかもしれない。
そう思いながら、逃げるように彼女の前から姿を消した。

だけどその日から、あの寂しげな表情をした彼女を忘れられなくなった。


その日、少女たちが帰った後、慎哉から彼女が悲しげな表情を浮かべた理由がわかった。


あの楓文と紹介された子は、弟・孝輝の……UNAの大ファン。
バンドを始めたのも、孝輝がきっかけだと言う。


『だから時間がゆるしたら、孝輝の代わりにお前が楓文ちゃんの頑張り
 見届けにやって来てくれないか?』

そうやって……慎哉にもマスターにも頼まれた。 


六月十五日。
彼女がマクサでLIVEする日、急患が続いてなかなか帰ることが出来なかったが
ようやく病院を出られたのが19時近く。

17時半から開演しているLIVEに、間に合うのかどうかはわからないままに
交通量の多くなる23号線を走っていく。

ようやく通い慣れた場所についた頃には、20時を少し回ってしまっていたが
いつもの第2駐車場に車をとめて、ゆっくりとライブハウスへと歩いていく。

中から聞こえてくる音。
盛り上がってるオーディエンスたちの声。


入口のドアを手にかけたまま、開けるタイミングをはかる。
音が途切れた合間にドアノブをまわすと、
俺の姿を見つけた慎哉がすぐに中へと招き入れてくれた。



「来てくれて有難うな。
 今、楓文ちゃんたちFour Rosesの演奏が終わって、今から合同演奏なんだよ」


ワンドリンクチケットだけ購入して、フロアの中へと入ると
1階には彼女たちのファンが所狭しと集まって、手をあげたり歓声をあげて盛り上がる。


「慎哉、ノンアル一つ」

乾いた喉を潤すように、注文をしてカウンター側の一番後ろで壁に持たれながらステージを見つめていた。



ステージで、光を浴びて歓声に包まれる少女たちは、
凄くキラキラと輝いていて、楽しそうだった。


最後までステージを見届けて、そのまま店を後にする。

何となく……今日のことを孝輝に話してやりたくて、
お墓へと足を向けた。


綺麗に管理されたお寺の一角に、用意されている先祖代々の墓で
アイツも一緒に眠ってた。


蝋燭も何もないけど、近所のコンビニでアイツが吸っていた煙草とライター、缶ビール一本を
購入すると、そのままお墓へと備えた。


煙草に火をつけて、缶ビールを備えると両手をあわせて座る。



「今日、お前のファンだって言う女の子の演奏を聴いてきたよ。
 まだ原石だったけど、少し懐かしくなった。

 お前もあんなだったよな……」


小さく声を出して言葉にしながら、込み上げてくるのは助けられなかった罪悪感。



あの時に俺が運転してやってれば、事故らなかったのかもしれない。
あの時、俺が傍に居たら……何か出来ることがあったのかもしれない。


あの日以来、思い浮かぶのはそんな『もしも』のことばかり。
もう、取り戻すことも出来ないと知りながら……悔み続けることしか出来なかった。