六月十五日。
本番当日の朝、私は今日着る予定の、Tシャツと格闘していた。


真っ黒のTシャツ。
だけど……このまま着るのは、面白くないしやりたくない。


買ったばかりのTシャツに鋏を、バッサバッサと入れていく。

Tシャツの裾は、裾下から縦に細い切り裂いてビラビラに。
肩下から胸元近くまでも、長さの違う切りこみを幾つも入れて、半分にして
切り口と切り口を結んで網目状に。

背中のラインも、Vラインにカットして
その間を天の川を折り紙で作るように切りこみを入れる。


何とか完成したTシャツに袖を通して、
革系のスカートをはくと、上に一枚羽織って一階へと降りる。


「おはよう。
 今日はマクサだったわね。

 お母さんもお父さんも、夜は顔出すから頑張ってね。
 ご飯、作ってあるからちゃんと食べていきなさいよ。

 お母さん、今から仕事に行くから」

「うん。有難う」


欠伸混じりの返事をして、お母さんを見送ると
テーブルに並んだ朝ご飯を食べ始める。

同時にスマホが震えはじめる。


着信相手は歩乙衣。


「もしもし、おはよー」

「おはよー準備OKよー」

「早っ、私、まだ朝ご飯食べてる。
 さっきまで、衣装やってたんだ」

「おいおいっ。んじゃ、準備終わったら来てよ」

「了解」


歩乙衣の電話に、慌てて朝ご飯を食べ終えると食器を洗って
バタバタと荷造りを済ませて愛車へと乗り込んだ。

歩乙衣の自宅、碧夕の自宅へと立ち寄って二人を拾うと、
そのまま松阪へ向けて走り慣れた道を走っていく。


マクサの入口前の駐車場につくと、
すでにNoirの機材車が二台止まってた。

県外ナンバーを見ると、Noirか、ファラーシャかどちらが来ているのかが
すぐにわかる。

その隣に私たちも、車を駐車して車から降りた頃には、
ファラーシャの機材車も、その隣へと静かに停車した。



「おはようございます。
 今日は宜しくお願いします」


挨拶をしながら、中へと入っていくと懐かしいメンバーが顔を見合わせる。


「久し振り、アンタが伊勢神宮で舞女さんしてるなんてねー。
 歩乙衣から聞いた時には、びっくりしたわよ」


そう言いながら、朔は私に抱き着いてくる。

「抱きしめたら、ご利益ある?」

「えっ?どうだろう」

「えっ、楓文ちゃん舞姫さんなの?
 私たち、早朝に伊勢神宮ついて、せっかくだからお参りして来ようって。

 朝一で、参拝してこっちに来たのよ。
 せっかくだったら、楓文ちゃんがいる時間に行けば良かった?

 行ったら、楓文ちゃん指名できるの?」

なんて、朔との会話に寄りこんできた、ファラーシャの光【ひかる】の言葉に
驚く。