「おぉ、孝悠。

 よく来たな、奥に慎哉が待ってる。
 カウンターの方へ行けよ」


受付でチケット代とドリンク代を支払って、
そのままカウンターの方へと顔を出してカウンター前の椅子に座る。


「よっ、久しぶり。
 どうよ、この場所は?」

「懐かしいな」

「飲み物は?」

「車だから、ノンアルのビールで。
 腹減ったからマクサバーガー一つ」


注文をした後、体をステージの方向へと動かして
今日の演奏者のサウンドを楽しむ。


会場内をアコースティックギターを演奏しながら歌って
盛り上げていく演奏者。

拍手が何度も会場を包み込む。

観客内からMCの度に、温かい返事が飛び交って
次から次へと演奏が進んでいく。


そんな光景を懐かしみながら、
出てきたマクサバーガーを食べつつ眺めていた。

慎哉も自分の今のバンドでステージにあがって、
演奏を披露する。

その頃にはノンアルコールビールから、ノンアルコールのハイボールへと
飲み物も追加注文。

最後の大トリは、ここの店長のバンドの演奏。

大盛況で盛り上がった久しぶりの懐かしい箱。


するとお客さん達の接客に忙しそうにしていたマスターが、
何時の間にか俺の傍へと近づいてきていた。



「孝悠、元気にしてたか?」

「えぇ」

「あれからもうすぐ一年だな。
 あの孝輝がなぁー」


そう言って弟の名前をしみじみと呟いた。


「後一ヶ月で一年ですよ。
 それより今日は、無理いってすいませんでした」

「いやっ、慎哉に頼まれたら断れないよ。
 それに俺もお前さんに会いたかったしな。

 どうだ?少しステージでギター触ってくるか?」


その申し出に俺は首を横に振った。


そのタイミングで一人の男の人が女の子を連れて俺たちの方へと近づいてくる。
 


「ご無沙汰してます。
 今度、またうちの娘がお世話になるみたいで……」

「いやいやっ。
 楓文ちゃん、演奏もパフォーマンスもいいからね。

 Four Rosesのステージの日は、チケットも伸びてね。
 最初の頃は、チケット売れなくて楓文ちゃんたちの友達が多かったんだろうけど
 今回はもう完売してるよ。

 対バンで名古屋と大阪のバンドの子が一緒に演奏するって言うのもあるのかも知れないけど、
 売り切れるのは早かったよ」


マスターのそんな話を聞きながら、
隣に居る大人しそうな女の子は嬉しそうに笑う。


「楓文ちゃん、紹介しておこうか。
 楓文ちゃんたちの先輩かな。

 昔、ここで何度かLIVEをしたことのある孝悠だよ。
 パートはギター」



そうやってマスターが俺のことを紹介した途端に、
少女の瞳が悲しげに曇ったのを見逃さなかった。