「あぁ、呼んでやれ」


そう言って懐かしい声が、スマホ越しに聴覚を刺激する。


「だってさ。
 んじゃ、伊勢からだろ。

 安全運転で来いよ。
 23号混みだすから」

「あぁ」


そのままスマホをポケットに放り込むと、
愛車のドア解除スイッチを押して、スタートボタン。


軽快なサウンドが響いて、そのまま23号線から松阪方面へと向かった。


夕方の混雑が始まりだす時間帯は、
すいている時よりも、時間がかかって仕方ない。


この時間帯にこの道、走るの久しぶりだな。

23号線沿いの車窓を視界にとめつつ、頭のなかでは昔の車窓を思い描いて重ねていく。

変わってしまった場所を見つけると少し寂しさも感じながら。

23号線から信号を曲がって、42号線へ入ると
懐かしい『M’AXA』の看板が視界に入る。

LIVEハウスの前を通り越して、第二駐車場の矢印を確認して細い道に入ると
縦列で並べられた駐車場へと車を停車して、会場へと向かった。


この場所で……俺も弟も時折、演奏してた。

俺は弟の孝輝ほどギターを弾くことは出来なかったけど、
デモテープの持ち込みから、LIVEをさせて貰えるようになった懐かしい思い出がある。

30枚のチケットノルマに必死になりながら、孝輝たちと楽しんでた箱。

孝輝は高三の夏には、俺たちと演奏をすることをやめて、名古屋・大阪・岐阜・京都のメンバーで
別のバンドを立ち上げて、プロを目指してかけ始めた。

そして解散した俺たちは……、それぞれの道を歩き始めた。


歩道を歩いて、懐かしい道を踏みしめる。

オールドアメリカンな雰囲気が佇むその場所へと立ち入る。


ドアを開けるとテーブルと椅子が一階に並べられていて
そこで遊びに来ているお客さん達が、
食事を楽しみながらステージを見て思い思いの時間を過ごしていた。