「それじゃ、今日も1日お疲れさん。
 頂きます」


お父さんの掛け声で、一斉に手を合わせて食事が始まる。

その後は、食事をしながら、学校はどうだった? 仕事はどうだった?などなど
その日の情報交換のような団らんの中で、食事が進められていく。

晩御飯が終わると、着替えを済ませて何時でも出掛けられるように準備をする。


気替えを終えて、ギターを引き寄せた時スマホが着信を告げた。


「もしもし」

「楓文、もうすぐ店につくぞ。
 出て来れるか?」

「うん。行くよ」


短い会話を終えて、演奏する時間のなかったギターをケースに戻すと
そのまま1階へと降りて、両親に出掛けることを告げて玄関を出た。

車庫の一角に、高校時代にずっと乗ってた自転車のタイヤに空気を入れて
そのままお店まで出掛ける。

カフェの1階部分の駐車スペースに自転車をとめて、
2階へと続く階段を登ると、顔馴染の店主が温かく迎え入れてくれる。



「おぉ、楓【ふゆ】ちゃんいらっしゃい」


店主の声にすでにテーブルについていた祥永が私に向かって手をあげる。


「今、すぐ水持ってくな」


おじさんの声を聞きながら、真っ直ぐに祥永の傍へと向かった。


暫く会わないうちに、祥永は髪型も髪色も、ファッションも変わってた。

私と一緒に居た頃は、UNAが着ていた黒を基調としたファッションを意識した装いだったのに、
今は全く違う。

和テイストの私服。



その瞬間、何となく清香の言葉が現実になった気がした。




「悪いな、楓文。仕事、忙しいんだろ」

「さっきも帰って来て、そのまま晩御飯の時間まで寝てたよ。
 遅くなってごめん。
 
 それに祥永も大学の後、こっちまで来て貰って有難う」

「別に運転は苦にはならねぇから。

 あっ、俺……先にパスタ注文したぞ。
 腹減ったー」


そう言いながら祥永も私に視線をあわせようとしない。


「おじさん、アイスティーとたこ焼き」


お水を持って来てくれた店主に、オーダーを終えると
二人だけの気まずい空間が広がる。


学生時代も何度かデートしたこの店。

UNAが天国に旅立った時は、
落ち込む私を祥永が必死に慰めてくれた思い出の店。


だけど……高校を卒業して、一ヶ月ちょいの擦れ違いは
私たちの距離を遠くしていくみたいだった。



「祥永は最近どうなの? バンド?
 エチュード、練習いってる?」


わざと心の中のモヤモヤに蓋をして、当たり障りのない話題から話かける。


「最近は、エチュード行ってないな。
 楓文知らないと思うけど、うちのメンバー変わったんだよ。

 尊【たける】と康生【こうせい】、お前と一緒で高校でて就職しただろ。
 全然、練習に来なくてな。

 練習何時やんだよ。次のLIVE決まってるだろって、話したら抜けたんだよな。
 ふざけんなって感じ。

 そんな半端な気持ちで音楽やってんじゃるねぇよって。
 んで、大学で出逢った子が新メンバー紹介してくれたんだ。

 だから今は、新メンバーの自宅スタジオで練習してることが多いな」



祥永の自分勝手な言葉に、イラッとする気持ちを感じながら
私はアイスティーとたこ焼きが運ばれてきたのを、それ幸いに逃げるように口に運んだ。


祥永も運ばれてきたパスタをペロっと平らげると、
店を出て近所の公園へと歩いていった。



殆ど遊具のない、住宅街の一角に作られた小さな小さな公園。

だけどこの公園も、夏には打ち上げられる10分花火を楽しんだり、
盆踊りで賑わう、そんな場所。


殆ど会話のないまま、お気に入りのブランコへと近づくと立ち乗りして
ゆらゆらと、屈伸運動をくわえながら揺らし始める。