「全て確認終えました。
 綺麗になりましたね」



確認が終わって、ふぅーっと緊張が解ける。



「それでは、藤【ふじ】さん、文【あや】さんは装束に着替えて、
 控室へ。楓【ふゆ】さんは、お守りの授与のお手伝いを」


藤本の藤さん。
文乃【あやの】さんで、文【あや】さん。

こんな風に、舞女【まいひめ】さん同士では、
名前にちなんだ呼び名が決められる。



午前中はお守りの授与。

午後からは数回の、倭舞を終えて
クタクタになりながら、一日を終えた。


着替えを終えて、愛車に戻って一息。


鞄の中のスマホを覗き込むと、祥永からの着信が何度か続いていた。


そしてそのままLINEの画面を確認すると、祥永からのメッセージが届いていた。




楓文、今日の夜逢えないか?

俺がそっちに出て行くから。





伊勢に自宅がある祥永が、鳥羽まで来ることを告げる連絡。


清香の一件がなければ、純粋に喜んだかもしれないけど
今の私には不安要素しか存在しない。



スマホの電話帳を開いて、祥永の電話番号を表示させてコールするものの
祥永が出ることはなくて、そのままLINEに返信を書きこむ。




わかった。
開けとくよ。 

夜だから、近所のカフェテラスでいいかな?




っと自転車で行ける距離を指定する。



そのまま暫く、LINEを見つめ続けるものの既読になることなく
私は車のエンジンをかけて、愛車を発進させた。


運転中にLINEの着信を告げる音が響く。
自宅についてスマホを確認すると、『OK』と言うスタンプがペタリと貼られていた。



車から降りて、玄関のドアを開けると晩御飯の香りが家の中に広がってた。



「ただいま」

「お帰りなさい。疲れた顔してるわね」

「まだ新人だもん。

 巫女舞って、ゆっくりなテンポと所作だからさ
 なんて言うか体中筋肉痛だよ。

 あっ今日の夜、祥永が鳥羽に来るってさ。
 だから夜、少しカフェまで出掛けるわ」


用件のみ伝えると、スーツを脱いでハンガーにかけて吊るした後
衣装ケースからラフ着を身につけて、倒れ込むようにベッドに突っ伏した。

あぁー、もう疲れたー。

そのまま起き上がる気力なんてなくて、
そのままウトウトと眠ってしまう。


「楓文、起きなさい。
 お父さん、帰ってきたわよ。
 晩御飯にしましょ」


ゆさゆさとお母さんに揺すられて、ようやく目が覚める。
すでに19時半近くになろうとしていた。


慌ててダイニングに降りると、すでに皆テーブルについていて
私が座るのを待ってた。


晩御飯は家族揃ってが家風の我が家。


「遅くなってごめん」

椅子に座ったのと同時に、テーブルにお茶椀がコトリと置かれて
温かい食事が並ぶ。