「ちーっす、燈真。頼まれてたの、全部終わったぜ。」
昼過ぎのルナ。
指の間に挟んだ紙切れをピラピラとはためかせて、慣れた手つきで裏口から入ってきた崇。
「早いな。」
階段に腰掛けて、煙を吐いていた俺は、暗号化されたそれを受け取って、笑う。
「当たり前っしょ。そんなん楽勝だし。ご褒美に、酒ちょうだい」
「ーはいはい。」
四角く折り畳み、注意深く煙草の箱に仕舞いながら、腰を上げた。
L'Ombra della luna (オンブラ・デラ・ルナ)
通称オンブラ。
ルナの成員は、ノッテ・ディ・ルーナに属する人間と、オンブラ・デラ・ルナに属する人間とに分かれる。
例えば、崇は、ノッテディルーナでは働かない。
カウンターに来て、飲むだけ。
女を侍らせて良いのも、報酬代わり。
崇の異常な程の情報収集能力は、オンブラでかなり貢献してくれている。
因みに、クラッカーとしても凄まじく、学校に行ってないというのが信じられない。
最初は馬鹿で厄介な奴だと思っていたが、なかなかどうして、使い勝手の良い人材。
今までも、オンブラに情報屋は居たが、崇は別格だった。
「あっ、崇!髪が真っ赤!!!」
二階で、テレビを観ながら寛いでいた筈の葉月が、いつの間にか降りてきて、カウンターに座る崇を指差す。