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夕陽が、赤い。
闇が、近い。
「葉月。」
文具店の前、背中を窓ガラスに預け、足をぶらぶらと片方ずつ動かす妹を呼ぶ。
「お兄ちゃん!」
名前を呼ばれた葉月は、はっとしたように振り向くと、一瞬だけ、安堵の表情を浮かべた。
が、直ぐに。
「もう!どこに行ってたのよぉ。私、カゴに入れたもの、ぜーんぶ戻しちゃったんだからね!」
お得意の膨れっ面を作って、憤りを露わにした。
「…ごめんごめん。ちょっと煙草を切らしちゃって。買いに行ってたんだよ。」
「もーぉ…。…?その人、誰?」
呆れ顔になった葉月が今度は不思議そうな顔をして、俺の後ろを指差す。
「…んー?葉月、なんか視える?」
「え!!!!」
振り返ってみて、葉月と同じように不思議そうな顔をして訊けば、彼女の顔が分かりやすく引き攣った。
「み、み、視えない!な、何にも!」
恐怖に怯えて、必死で首を振る葉月に。
「そう。じゃ、もう一度好きなの選んでおいで。」
そう言って、促した。
「…うん!」
顔の強張りが、若干残るものの、元気よく返事をして、葉月は再び文具店の中へ入っていった。


