「そんな顔をするな。お前にはちゃんと役割がある。」
父がそう言った瞬間、フワと香る、甘さ。
クローブの、香り。
「榊(さかき)。頼むからこの狭い部屋で、ガラムなんか吸うなよ。」
いつから、そこにいたのか。
どうやって、入ってきたのか。
影のような男が、さっきまでは絶対にいなかったのに、窓際から姿を現した。
「ーわかりました。」
背の高い、ひょろっとした青色い顔の男は、無表情のまま、出した煙草を胸に仕舞う。
「燈真。お前はこれから、私の仕事の陽の当たらない部分を背負って行ってもらう。指令は全て榊が繋ぐ。」
「それは…どういう…」
「必要な情報は全て榊が教えてくれるだろう。」
狼狽える暇も与えず、父は眼光を鋭くして答える。
「安心しなさい。この事は、お前は生まれた時から、いや、生まれる前から、決められていた事なんだ。…そう、下の名前だけは、持っていきなさい。」
言いながら、父は椅子を右側に少し揺らし、また前を向き。
「燈真と言う名前は、真実を照らす燈という意味ではない。真実であるかのように照らす燈という意味だ。」
ギシ、と椅子が軋む。
「世の中には、要る人間と、要らない人間が居るんだ。」
パチ、パチと音がして、虚ろな目で煙る方向を見ると、榊が煙草に火を点けていた。
「燈真。お前は厄病神…いや死神になるんだよ。」
線香のような、纏わりつくような香り。
呪いの、宣告。


