ー空生、
遠退いていく意識のなかで。
見えなくなっていく、視界の中で。
自分の血だけが鮮明に染まっていく。
やがてはそれもなくなって。
いつか、全員揃って、一度だけ行った、広い海が、見えた。
悲しい雪でも無くて。
冷たい夜でも無くて。
『…なんで、海?』
『仕方ないじゃん、崇が良い所があるから来いって言うから…』
『葉月ー!!綺麗だろー!』
『うん、きれいー!!崇のくせにねー!』
『一言余計だわ!』
まだ、幼かった妹と。
名無しの俺等。
だれもいない砂浜で、光いっぱいに。
もし、誰かが見てたとしても。
誰も家族だなんて、思わないだろう。
だけど。
『みんな、ありがとー!!!』
キラキラ輝く水面を見て直ぐに振り返った妹が。
満足そうに。
幸せそうに笑った顔が。
忘れられなくて、何度も、一人で通ったなんて。
格好悪くて誰にも言えない。


