「なんで…」
笑ったこともなく、怒りを表したこともない男は、陽の当たらない狭い道を、音もなく辿って、驚く俺に近付く。
そしてー
「………っ」
激痛が胸から身体中に走り、一瞬何が起こったのか分からなかった。
「ー悪く、思わないでくださいね。」
俺の中に入り込んだそれの先端は、貫き出る程大きな刃渡り。
種も仕掛けもあるマジックとは違って、鈍く光る刃に、数珠のようにきらめく鮮血が滴る。
「ルナの支配者としては、正直勿体ないのですけれどね。あなたが捨て猫の一件なんかを調べ始めたせいで、組織はあなたが暴走しかねないと判断しました。」
「ー、、猫…?」
刺したモノを迷いなく引き抜く時。
「金色の毛並みのね。」
初めて、男は笑った。
「あの猫に関わったのが、運の尽き、でしたね。」
倒れ込んだ俺を置き去りに、男は何事もなかったかのように消える。
夜の街は、昼間は静かで。
誰も、気付かない。
ルナの明るさは、夜だけだから。
本当は、昼も夜も、光源はひとつなのに。


