踵を返して、ルナへと向かう。
「あっ、ありがとうございますっっ!!!」
追い掛けてきた馬鹿でかい声が、背中に重たく圧しかかったようで、つい払いたくなった。
花音から。
ー空生の匂いはしなかった。
遠のいて行く足音に、そっと振り返ってみれば、花音は駅の方へと戻って行く。
めかし込んだ服装で、どこに行くのか。
大体想像がつくけど。
あれだけ、空生への想いをだだ漏れさせておいて、もう、乗り換えたんだろうか。
だとすれば、身の危険を冒してまで、何故、ここまで来たのだろう。
何の、メリットがあってー。
そこまで考えて、はたと気付く。
そうだった。
櫻田花音に、メリットデメリットは、関係ないんだった。
何もしてもらえなくとも、与える事のできる人間だった。
俺の、知らない、人種。


