感情が、言うことを聞かない。
ただ、怖かった。
全てを、ありのまま、受け容れている、この女が。
ああ、そうか。
空生。
「愛された…記憶がないのは…、あなたも…」
苦しい息で、花音はしっかりと俺を見る。
こうやって。
こんな風に。
この女は、最初から。
何も持っていない、ありのままのお前を見てたのか。
ー『…あいつは…自分が何かした、なんて、思ってすらいないよ。』
与えるつもりがなくても、与えているのか。
そうか。
お前、初めて。
無償で与えてもらったのか。
「あなたにも…物語が、あるんじゃないですか…?」
見返りを何一つ、求められずに。
自分の生まれてきた理由(ワケ)も。
死にきれずに生きている現在も。
昔がどうで。
今がどうでも。
そのままを、認めてもらって。
そのままが、価値があるんだと。
そう、教えてもらったのかよ。
愛されなかったのは、お前が悪いんじゃないと。
小難しい定義なんかなくたって。
お前を愛せる理由は充分に、そこらじゅうにあるんだと。
お前は、、厄病神なんかじゃないんだって。


