Live as if you will die tomorrow















「…やだやだぁ…」




静けさに割って入る、葉月の泣き声は、出て行った空生の耳には届かない。



「お兄ちゃん…」


カウンターの内側。

力の入らない足取りで、俺のそばに来た葉月は、いつもの強気な目に大きな涙を溜めていた。


「零…も、私達を…置いていっちゃったの…?」


俺ら、兄妹以外は誰も微動だにしない空気の中。


「…そうじゃないよ、葉月。」


いつかみたいに、母親に置いて行かれた記憶が、葉月の元に蘇る。



「零には…もう、月が必要なくなったってだけ。」


葉月はその意味する所を知らない。

だから、余計に泣いた。

それでも、今回は。

どんな我が儘を言っても、何をしても、元に戻ることはないのだと理解しているのだろう。


力が抜けたようにその場に座り込むと、もう声を立てずに、静かに泣いた。


身体を抱え込むようにして。




俺は、そんな妹を横目に、痛む身体に気付かないフリをしながら、パンパンと服を叩いて立ち上がった。


「ごめん俊哉。今日はもう、店もこんなになっちゃったから、お客様に帰ってもらって。怪我した人がいたら、治療費はこっち持ちで。」


心配そうに、しかし遠巻きに俺の様子を見ていた俊哉に、そしてその他のスタッフにも指示を出す。


「皆さん、見苦しい所を見せてすみませんでした。」



最後に客にそう言い残し、俺は足を引きずりながら、スタッフルームへの階段を上った。