「少しだけ、ね。」
割と動揺もせずに認める崇に、苛ついて。
「何々、また良いお相手でも出来たわけ?」
探りを入れたら、不意を突かれた。
「……なんだよ。」
てっきり目を逸らすかと思っていた崇が、俺の目を真っ直ぐ見つめ返したからだ。
「燈真ってさ…心残りって、ある?」
「何、急に。」
「良いから」
ー突然何を言い出すかと思えば。
馬鹿馬鹿しい。
心残りなんて。
「ないよ、そんなもの。」
アイスピックで削った氷を、崇のグラスに入れながら、即答した。
「あの時ああしていれば、こうしていれば、今は違ったかもしれないっていう奴だろ。俺からしてみれば、そんなの、無駄な時間だね。どう足掻いたって、元になんか戻らないんだから。」
蔑むように笑い飛ばしたのに。
「俺は無駄だとは思わない。」
崇が馬鹿真面目に否定する。
「ああしていれば良かったって思うから、【次】は同じ結果にならないように出来るだろ。」
崇はグラスに自分で酒を注ぐ。
トクトク、音がする。
「こんな俺でも、心残りはあってさ。」
それが僅かに氷を溶かし、カランと鳴った。
「その心残りを、今さっき、ちょっくら生かしてきたんだよ。」
ちょうど馴染みの客がカウンターに座って、呼ばれ振り向いた俺の耳に、崇が呟いた言葉が入った。
もう、後悔したくねぇから。


