月がおぼろに顔を出す時間。
「何、燈真、帰んの。俺に出す酒はどーしてくれんの。」
ルナのバーを、葉月に任せて、上がろうとする俺を、崇が引き留めた。
「葉月がいるでしょ。てか、お前には、別にシェイカーとかも要らないしね。」
言いつつ、ボンベイサファイアの瓶を、目の前に突き付ける。
「ひでぇ扱い。」
「十分好待遇だろ。」
へいへい、わかりましたよー、と不貞腐れながらも、崇は青い瓶を手に取った。
それを横目に、俺は着替えに二階に上がる。
ネクタイを締めて、タイピンを手に取り、照明に翳した。
中にある液体が、光を通さず、鈍く映る。
いつかの真冬の記憶が、かする程度だが、思い出される。
それだけで苦々しい感情が沸き起こる。
ーいくつだっつーの。
自分自身を嘲りながら、アブサンの入った瓶もポケットに入れた。
真っ黒なジャケットを羽織って、部屋から出ると、五月蝿い妹が纏わりつくので、なんとか追い払って、階段を降りる。
裏口に向かう手前で、ふとカウンターを振り返ると、崇の隣に腰を下ろしている空生が目に入り、自然と笑みが溢れた。
「直ぐ、帰るから。」
笑みというには小さ過ぎる、笑みが。


