苛つく思いを紛らわせたくて、返された鍵へのムカつきを抑えたくて。
暗がりの中で、きらきらと輝くビルの灯りに集中させるけど。
別に、きれいなものなんて、興味ないから。
ふと、気付いてしまう。
此処に在るはずのない、香りがしたような錯覚に陥るほど。
「なんで家まで…」
櫻田花音は、何故、このマンションを知っていたんだ?
この、部屋番号まで。
暫し、呆然とした。
だって。
答えはーひとつしかない。
空生が、鍵を返したのは、そういう意味だったのか、と。
空生は、自分のテリトリーに、他人が入るのを決して許さない。
だから、本業でも、自分の住処に、他者を近づけることは、全くと言っていいほどない。
その、空 生が。
会って間もない、女に、この部屋を、教えた。
あんなに嫌がってた名前と一緒に。


