途端に、俺以外の人間の存在に気付き、眉間に皺が寄る。
「あれ?」
わざとらしく声を上げると、招かれざる客は振り返ってこちらを見た。
「燈真…さん…」
櫻田花音ー全ての事の元凶は、呆然とした面持ちで、俺の名前を掠れた声で呼んだ。
憔悴しきっている様に見える、女の様子に、嘲りにも似た笑がこみ上げる。
「もう、会わないと思ってたんだけど、会っちゃったね」
本当は会わない、じゃなく、会いたくないんだけどね。
用無しの癖に、なんでこんな所まで来たんだ?
まさか、空生がここに居るとでも?
「空生ならもうここにはいないよ」
自惚れも甚だしい。
「あの…どこに…」
馬鹿じゃないの。
見つけたとしてどうすんの?
「教えるとでも思う?」
あんたもう、捨てられた女なのにさ。
「もう、会えないから。忘れた方が良いよ。」
早く俺の視界から消えて欲しい。
ただでさえ、お前のせいで、損してるんだ。
お前なんかが、俺から空生を奪うだなんて、割に合わなさすぎるんだよ。
目の前の女を、心底蔑みながら、ポケットの中では、いまだに鍵をいじっていた。
そして、嘲笑いながらも、苛々していた。
形勢はいつだって、俺の方が優勢。
「…契約…」
それなのに、いつだって、花音は、怯えるような目をしない。
「ーえ?」
それどころか。
「契約違反って…なんですか…?」
いつだって、俺の虚に付け込んでくる。


