「大丈夫だった?予想通り、客は誰も来なかった。」
カウンターに戻ると、気付いた崇がにやりと笑う。
「サンキュ。なんかさっきより人増えた?」
明らかに、客数が増えている。
但し、バーカウンターに座る人間は、今の所、崇一人だけだ。
「零が居るからねぇ。」
そう言って、崇はスツールを回転させ、ステージに向くと、目を細めた。
輝くものでも見ているみたいに、眩しそうに。
俺は、暫くは、氷とアイスピックと睨めっこしていたが、数分後には手を止めて、結局ステージ上の空生を見た。
こんなに人を惹きつける才能を持つ空生は。
本来なら、光の下を歩くべきだったんだろうと思う。
蔑(さげず)まれ、疎まれ、傷付けられてきた空生がもし、そうじゃなく生まれていたら。
そうしたら、俺とは交わる事もなかったんだろう。
ポロ、ポロと、溢れて失くなってしまう感覚に、途方に暮れそうになる。
本当は、お前は、眩しいんだ。
だから、『最初』さえ違っていなければ、俺とは出逢っていなかったんだ。
本当は。


