「大した傷じゃないけど…」
アイスピックで手を切るなんて、初めてだ。
「客来たら適当にあしらっといてやるから、とにかく消毒してこいよ。どっちにしろ、血止めないと仕事出来ないだろ。」
固まっている俺を、崇が2階へ行くように促す。
幸い、どの人間も皆、突然出てきた零のステージに興味を奪われている。
「ー悪い」
少し位大丈夫だろう、そう思って一旦スタッフルームに上がった。
電気を点けると、見慣れたソファが俺を出迎える。
救急箱なんてものはないから、近くに置いてあったタオルで止血した。
そのまま、ソファに座って天井を見上げる。
ー14年…もう15年前になるか。
ここで、居場所のない少年に、居場所をやったのは。
生きる意味を持たない人間に、生きる意味を持たせたのは。
それは、世間知らずな癖に、人間の汚い部分は知り過ぎている少年を拾った瞬間だった。
キレイなものは何一つ知らない。
それが、何を意味していたのか。
さっき、空生に、見透かされたような気がした。
何もかも知った上で、付き合ってやってたんだ、と。
そう、言われた気がした。


