「…零最後のステージに、葉月が謹慎なんて、ちょっとかわいそうだったんじゃない?自業自得だけどさ。」
アイスピックで、氷を削る俺の背に、崇が訊ねる。
葉月は昨日の件で、罰としてルナに来ることを禁じた。
「…大丈夫だよ、最後だって、知らないから。」
「後で知ったら大騒ぎするぞ。俺も、知らなかったことにするから。」
さっきの事で、崇が俺に何も訊かないのは、崇なりの気遣い。
「ん?でも、DJは辞めるつもりじゃないのかな?うん?あいつの本業って何だよ。もうルナには来ないってこと?」
と、思っていたが、どうも違ったようだ。
「知らない。」
丸い氷を作りながら、俺は小さく答えた。
崇が納得する答えじゃないことは、自覚している。
空生は、ここを離れて。
恐らく義父の用意していた家のある地に行くだろう。
ルナには、また数年したら帰って来るだろうか。
それとも、もう、ここには来ないつもりだろうか。
今の、「辞める」は。
俺との関係も、清算する、という意味か。
砕けて散る氷の粒が、キラ、キラリ、と光っては溶けていく。
その内それに、赤が混じって。
「おい、燈真!」
崇が、俺の名前を呼んだ。
ハッとして手を見ると、血が滲んでいる。
「指、切れてんぞ」
痛みに、最近鈍くなってきたらしい。
気付かなかった事に、軽いショックを受けた。


