崇の声は聞こえている。
怒りで我を失った訳ではない。
だが、空生の目がやけに冷めてるように見えて、息を潜めていた感情が、また吹き返す。
「お前、そんなんで終わると思ってんのかよ?」
空生は真っ直ぐに、臆することなく俺を見返している。
「…放せよ」
それが、決意の固さを裏付けているようで、やるせない。
なぁ違うよな?
お前の奥深く、内奥にあるどろどろした黒い塊は、そんな程度じゃないだろ?
「母親のこと許したのか?」
許す、なんて高尚なこと、俺らには不釣り合いだろ?
「カンケーないね。」
なのにどうして。
どの言葉も、見つからない
どの言葉も、今の空生を引き止められない。
俺の瞳が揺れるのを、空生は見逃さなかったのかもしれない。
「なぁ、燈真。あれから10年以上経ってる。…もう、十分だろ?俺が居なくたって不自由してないはずだ。」
心を刺し通された、と思った。
空生の頼んだアブサン。
それはただの気紛れじゃ無かったんじゃないか。
「な、に、言って…俺はお前に協力してやって…」
空生は俺に抵抗せず、されるがままになっているのに、こっちの形勢が圧倒的に不利に感じる。


