「零に会うのは今日で最後、でしょ?」
本当にこの女は…
顔に全部が出て、分かり易い。
でも、俺からすれば分かりづらい。
こんな風に、誰かの為に、怒る感情、俺は知らない。
「…どうして…」
眉間に皺を寄せたまま。
「そんなに怖い顔しないでよ。【最後】だから、ちゃんと教えてあげようって言ってんの。」
「いや…結構です…」
花音は首を振る。
んな甘い話あるかよ。
ちゃんと説明してあげないと、お前みたいな馬鹿は、理解出来ないでしょ?
あぁ、本当に笑える。
笑い声を立てると、花音の肩が僅かに震えた。
そう、おかしい奴だって、やっと、気付いた?
俺は、味方じゃないんだよ。
「花音ちゃんはほんと面白いねぇ。…まぁ、そう言わずに。きっと、俺と会うのも、最後、だからね?」
最初からずっと、敵なんだよ。
それはー
「……」
黙り込んだ花音を横目に、煙草の灰を指で弾いたのを合図として、俺は再び口を開く。
「花音ちゃんには、お父さんとお母さんが居るでしょ?」
ー生まれた時からね。
「零にはそれがない。どっちも。」
息を呑むような音がした。
ねぇ、そんなに珍しいことじゃないよ。
愛されない子供は、お前が知らないだけで、世界中にごまんといる。
そのまま大人になったら、皆どうなると思う?
正解はね。
誰も愛せなくなるんだ。
だから、この世界はどんどんと。
蝕まれていっているんだ。
そういう人間に。
まるで悪魔に売り渡されたようにね。


