放っておいたって構ったって、所詮選択するのは本人だ。
俺は、どこかしら焦りを感じていても、大方は高みの見物のつもりだった。
櫻田花音が、空生をなんとかできる程の力量じゃないということは、瞬時に分かる。
あんなおとぼけ女が、空生と向き合えるはずがない。
そもそも空生は、どんな人間にも一線を引いて、立ち入ろうとはしない。
他者を自分の中に引き入れる事も許さない。
櫻田花音だって空生の過去を知ったら、すぐ冷める程度の気持ちに違いない。
空生の事を知れば知るほど、まさに空を掴むような感覚に襲われるだろう。実体がなさすぎて。
自分は微温湯に浸かっている人間なんだと思い知らされる。
そして。
空生は完璧でもなんでもないと、知るんだ。
弱い自分に気付かないフリして生きてきた。
周囲に周到に城壁を築いて、それが誰にもわからないようにしてきた。
ただの、一人の、孤独な男だ、と。
そして、正体がない。
近づいても近づいても離れて行くような感覚を味わう。
おまけに、あいつの周囲に居た人間は皆死んでいってる。いなくなる。
疫病神だ。
そんな空生を前に。
あの女はそれでも。
空生の傍に居たいと思うだろうか。
いや。
俺達の世界じゃない、あっち側の人間に、そんな奴はいない。


