水曜の夜。
先に崇がルナに到着し、カウンターで酒を仰ぐ。
花音ちゃんコールは続いていて、五月蝿いし、むかつく。
俺はほったらかしにして、別の客の相手をし、崇が大分呑んだ頃、空生が表からクラブに入って来た。
「あ、零。今日は来ないのかと思ったぜ」
崇が先に気付いて、ぼやくように声を掛ける。
今日は、と言っても、空生の出番は今日も用意だけはしてある。
どの日でも来たらそれが零のステージになるように。
「―しかも正面玄関から入ってくるとか、珍しいね。」
茶化しながら、今振っていたシェイカーから液体をグラスに注ぐが、イレギュラーなことに、僅かに動揺した。
当然だが、正面から入ってくると、目立つ。
現に今だって、大勢の客が目を輝かせて零の登場を喜んでいる。ファン歴が長い人間程、零の傾向を良く知っていて、近づきはせず、遠巻きに、だけれど。
空生はそういう風に目立つのを嫌がり、余り表から入ってこようとはしない。
なのに。
―駄目だな、最近少しの変化に敏感になって。
ただの思い過ごし、ただ単に今日は表から入ってみようと思っただけだ、と自分に言い聞かせてる内に、空生は俺の事をしっかりと見て。
「ジンロック、ちょうだい。」
淡々と注文した。
その表情は、今までと何ら変わらない。
「あーあー、カノンちゃんなんで来ないんだろうー?!」
喚く崇の横の席に、漸く空生が腰を落ち着ける。
「カノンちゃーん…」
そうだよな?


